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Claudeが未知の酵素システムを発見したとAnthropicが発表

AIが見つけた特徴を、研究者が追加解析と実験で調べた。何が新しく、どこまで確かめられたのか。同じ探索を10回やり直しても再発見できなかったという課題も解説する。

AIは、まだ知られていない生物の仕組みを見つけられるのか。Anthropicは、ClaudeがDNAの中から未知の仕組みを見つけたと報告した。何が新しく、実験でどこまで確かめられたのかを論文からたどる。

この記事の要点

  1. 既知の酵素の周辺から、反復するDNA配列と関連遺伝子の組み合わせを見つけた。
  2. 実験では短いRNAが作られることを確認したが、システムの働きや遺伝子編集への応用は未解明。
  3. 自律的な探索で手がかりを得た一方、同じ探索を繰り返しても再発見には至らなかった。
Anthropicが研究成果の紹介に掲載した画像
出典:Anthropic

出来事

  • Anthropicが9月23日、日本時間24日未明に研究成果を発表し、技術論文を公開した。
  • 発見した系統をARTと命名。探索にはClaude Mythos 5を使用した。
  • 2026年春に設けた生命科学の研究チームと実験室についても公表した。

一次情報:Anthropicの発表、研究論文、公式投稿

発見したのは酵素を取り巻く未知の組み合わせ

Anthropic は、Claude がDNAのデータベースを調べ、これまで特徴が明らかになっていなかった酵素システムを見つけたと発表した。研究チームは、反復配列を伴う逆転写酵素という意味で、これをARTと名付けた。細菌に感染するウイルス、バクテリオファージの一部に見られる。

中心にあるのは、逆転写酵素と呼ばれる種類のタンパク質だ。一般に、RNAをもとにDNAを作る働きを持つ。Claudeが注目したのは、その遺伝子の隣に、短いDNA配列が繰り返し並び、さらに別のタンパク質を作る遺伝子があることだった。

酵素そのものを初めて見つけたわけではない。2021年の研究は、MarsHillというファージにこの逆転写酵素があると報告し、その隣にRNAを作る領域がある可能性も指摘していた。Anthropicの論文も、この先行研究を引用している。

今回の新しさは、そこにある反復配列と関連遺伝子を見いだし、同じ特徴を持つものを一つの系統としてまとめたことにある。すでに公開されていたデータを読み直し、研究対象として見過ごされていた組み合わせを拾い上げた成果だ。

ClaudeはDNAを読んで依頼にない特徴を見つけた

論文によると、探索に使ったモデルは Claude Mythos 5 だった。研究者は、逆転写酵素と、その近くにある別の遺伝子との新しい組み合わせを探すよう依頼した。DNAの反復配列を探せと、答えにつながる特徴を指定していたわけではない。

Claudeは、配列を調べる役と、その計画や結果を点検する役に分かれて作業した。気になる特徴が見つかると、自分たちで追加の調査を始められる。途中でDNAの並びを直接読んだエージェントが反復に気づき、間隔を測り、既知の仕組みや文献と照らし合わせた。

人の介入なしに進んだ最初の探索は21.5時間で、949回のエージェント実行を使い、19件の報告書を残した。949はモデルの種類の数ではなく、作業を進めるために開かれたセッションの数だ。また、21.5時間は探索にかかった時間であり、実験を含む研究全体の所要時間ではない。

その後は、研究者が有望な報告に注目し、Claude Scienceとの対話を通じて追加解析を進めた。この過程で、似た逆転写酵素の95群のうち28群に反復配列が見つかった。自律的だった最初の探索と、人が関わったその後の検証は区別する必要がある。

ClaudeがDNA配列の反復パターンを特定する様子を示す図
出典:Anthropic

実験では反復配列から短いRNAが作られた

配列の並び方が珍しくても、それだけで生物の中で何かの役割を持つとは言い切れない。研究チームはまず、過去に公開された感染実験のデータを調べた。すると、ARTの反復配列に対応するRNAが多く作られ、短い単位に分かれていることが分かった。

次に、ファージの感染とは別に、大腸菌を使った実験で調べた。こちらでも、反復配列から複数の短いRNAが作られた。配列に見えた特徴が、実際に作られるRNAにも表れていたことになる。

ただし、この結果が示すのは、反復配列からRNAが作られるということまでだ。そのRNAをARTの逆転写酵素が利用するのか、隣の遺伝子から作られるタンパク質と一緒にどう働くのかは、まだ確かめられていない。

Anthropic は、2026年春に生命科学の研究チームと実験室を設けたことも明らかにした。今回の実験室での作業はすべて人間の研究者が行った。AIがデータから候補を見つけ、人が実物を使って検証する形だ。

図1発見から検証までの役割分担

研究課題を設定したのは人間。最初の探索が終わった後も、追加解析と実験が続いた。

  • データから候補を探す人の介入なしで21.5時間の探索を実行

    担当Claude

    確認したこと未知の反復配列

  • 似た例を探して特徴を比べる研究者がClaude Scienceとの対話で追加解析

    担当人間とClaude

    確認したこと同じ特徴を持つ系統

  • 実物を使って確かめる実験室での作業はすべて研究者が担当

    担当人間

    確認したこと短いRNAの生成

ARTの酵素としての働きや、生物の中での役割は未解明。RNAの生成を確認できても、システム全体の機能を解明したことにはならない。

研究チームの報告論文とAnthropicの発表に基づき編集部が整理した。

CRISPRのようにDNAを編集できるかは分からない

発表では、ARTの配列がCRISPRに似ている点が強調されている。共通するのは、同じような短い配列が、異なる配列を挟みながら繰り返される構造だ。CRISPRは遺伝子編集に使われているが、並び方の類似だけでARTも同じ用途に使えるとは判断できない。

論文の考察は、ARTの逆転写酵素が実際に働くことも、短いRNAを材料として使うことも示していないと明記している。関連するタンパク質と結び付くか、ファージにとってどんな役割を持つかも不明だ。DNAを狙った場所で切る、書き換えるといった機能は実証されていない。

Anthropicが応用に期待するのは、似た構成を持つ既知の仕組みの中に、DNAを操作する技術へ発展した例があるためだ。ARTにもその可能性があるという見立てと、実際に使える道具ができたという話には、まだ距離がある。

関連する発見はほかにもある。スタンフォード大学などのチームは、ゲノム解析用のAIを使い、UG27という別系統の逆転写酵素の近くにRNAの配列群を見つけたとプレプリントで報告している。Anthropicの論文もこの研究に触れている。ARTと同一の発見ではないが、この分野の進展をClaudeだけの成果として捉えるのも正確ではない。

同じ探索を10回やり直しても再発見できなかった

研究チームは、同じ仕組みでもう一度発見できるかを調べるため、探索を10回繰り返した。結果は10回とも反復配列を見つけられなかった。対象の酵素にたどり着いた回もあったが、決め手となる周辺のDNAを読んでいなかった。

これは、発見した配列が存在しなかったという意味ではない。膨大な候補の中から、調べるべき場所を選び、必要なデータを読むところまで、自律的な探索を毎回うまく進められるわけではなかったという結果だ。

別の評価では、配列を直接渡した場合と、ファイルを自分で開いて調べる場合を比べている。高性能なモデルは、配列を読めば反復を捉えられる一方、道具を使える条件でも、必要な部分を読まないまま終えることがあった。情報にアクセスできることと、その情報を調査に使うことには差がある。

今回の成果は、正解が分かっている問題への回答を超え、研究者が追う価値のある手がかりをAIが見つけた点にある。ただ、1回の発見から、こうした成果を安定して生み出せるとはまだ言えない。次に問われるのは、ARTの役割を実験で明らかにすることと、別の対象でも有望な手がかりを繰り返し見つけられるかどうかだ。

出典・参考資料

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